このページの要点
- 診療契約は来院・予約で成立する準委任。サイトに掲載しただけで不利な条件に合意したとは言いにくく、規約は来院時の説明と同意を補う位置に置く。
- 責任の全部の免除は過失の程度を問わず無効(消費者契約法8条1項1号・3号)。軽い過失の一部免除は、軽い過失に限ることを明示する(同条3項)。
- 禁止事項の違反だけで常に診療を拒めるわけではない(医師法19条1項の応招義務)。
- 保険診療と自由診療で料金の書き方を分け、未成年の受診は法定代理人の同意の確認を成立の条件にする。
結論:サイトの規約で、診療の中身まで決めようとしない
クリニックのウェブサイトに置く利用規約で最初に決めるのは、「この規約が何を規律するのか」です。事務所がレビューした、健診・予防接種・一般外来を行うクリニックの規約の原案は、題名こそ「利用規約」でしたが、冒頭で「利用者(以下「患者」という。)」と定義し、診療の内容・料金・キャンセル・責任の免除まで一つの文書で決めていました。その一方で、サイトの著作権、不正アクセスの禁止、掲載情報の扱いといった、ウェブサイトそのものの利用条件は一つも書かれていませんでした。
診療契約は、患者が来院し、あるいは予約をして診察を申し込んだときに成立する契約で、法律上は準委任契約(法律行為でない事務の委託。民法656条)と整理されるのが一般的です。準委任では、受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法644条)。どのような検査をし、どのような治療を選ぶかは、来院した患者の状態を見て医師が説明し、患者が理解して選ぶものです。サイトに掲載された文言だけで、責任の免除のような患者に不利な条件に患者が合意したと言えるかというと、定型約款(不特定多数の相手と画一的な内容で行う取引のために用意した条項の総体。民法548条の2)の仕組みを使っても説明しにくい、というのが事務所のレビューの出発点でした。定型約款にあたる場合でも、相手方の権利を制限する条項で信義則に反して一方的に利益を害するものは、合意しなかったものとみなされます(同条2項)。
定型約款の個別の条項について合意したものとみなされるのは、定型取引を行うことの合意をした者が、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときです(民法548条の2第1項)。サイトのどこかに規約を掲載しているだけでは、この表示があったと言えるかが問題になります。予約フォームの送信の前に規約へのリンクと同意の欄を置くなど、規約を契約の内容とすることを予約の手続の中で示す設計にしておくと、少なくとも予約の手続に関する条項については説明がつきやすくなります。それでも、診療の中身や責任の範囲まで規約で決められるわけではない、というのが上で述べた整理です。
ウェブサイトの利用規約と診療契約の違い
観点
ウェブサイトの利用規約
診療契約
成立する時点
サイトの閲覧・フォームの送信など、サイトを利用した時点
来院・予約で診察を申し込み、クリニックが受け付けた時点
相手方
サイトの訪問者全員(患者でない人も含む)
診察を受ける患者(未成年なら法定代理人の関与が必要)
決めるべき中身
著作権、禁止行為、掲載情報の扱い、フォームの利用、規約の変更
診療の内容・方法、費用、説明と同意、記録の扱い
説明と同意
画面上の表示が中心
医師が個別に説明し、患者の理解を得る(医療法1条の4第2項)
責任
サイトの不具合や情報の誤りなど、利用に関するもの
診療上の注意義務。規約の一文で外せるものではない
サイトの規約は、診療契約を「補う」位置に置くと、両者の役割がぶつかりません。
事務所の改訂:対象と定義を、第1条・第2条で分ける
依頼者の原案に対する報告書では、この点を最重要の指摘として扱い、事務所が作成した修正版では、第1条で規約の対象を「本ウェブサイトの利用条件」と「医療サービス及び予約・問合せ等」に整理し、第2項で「実際の診療の内容、方法及び責任の範囲は、来院時に個別に説明し、同意を得たうえで診療契約を締結する。本規約は、個別の説明と同意を補完するものとする」という位置づけを置きました。第2条では「利用者(患者を含む。)」と定義を分け、サイトの訪問者と患者を同じ言葉で呼ばないようにしています。
事務所の書類での扱い 健診・一般外来のクリニックの利用規約
文書の性質
診療契約の中身をサイトの掲載だけで決めることはできず、規約の役割を限定した方が有効性の説明がつきます。
料金
原案のままでは、保険診療の料金までクリニックが独自に決めているように読めます。
未成年の受診
同意を確認する手順を「お願い」でなく、承諾の条件にしておくと、確認しないまま予約が成立する事態を防げます。
知的財産・分離可能性
ウェブサイトの規約として本来必要な条項が欠けていました。
- 本規約は、当クリニックが運営するウェブサイト(以下「本サイト」という。)の利用条件並びに本サイトを通じた診療の予約及び問合せの手続について定めるものです。
- 当クリニックにおける実際の診療の内容、方法及びこれに伴う責任の範囲は、来院時に医師その他の医療従事者が個別に説明し、患者の同意を得たうえで締結する診療契約によって定めます。本規約は、当該説明及び同意を補完するものとします。
- 本規約と診療契約の内容が異なるときは、診療契約が優先します。
第3項の優先関係を置くと、診療の場で個別に説明した内容がサイトの一般的な記載に負けることがなくなります。
免責条項:「故意・重過失がない限り責任を負わない」は使えない
医療機関の規約でもっとも誤解の多いのが免責条項です。よく見かけるのが、「当クリニックは、故意又は重大な過失がない限り、責任を負いません」「医療行為の結果について責任を負いません」といった一文です。患者は消費者(事業として契約するのではない個人)で、クリニックは事業者ですから、この関係には消費者契約法がかかります(同法2条)。
消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項(1号)と、債務の履行に際してされた不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項(3号)を、過失の程度を問わず無効としています。故意又は重大な過失の場合に限って責任の一部を免除する条項も無効です(2号・4号)。「故意・重過失がない限り責任を負わない」という文は、軽い過失(重大な過失に当たらない過失)の場合に責任を全部免除する条項ですから、1号・3号に当たり無効になります。「故意・重過失の場合には責任を負う」と書き添えても、軽い過失の場合を全部免除している点は変わりません。診療に伴って生じ得る損害は生命や身体に関わるものが多く、軽い過失であっても責任の全部を免除する書き方は、患者との関係では使えないと考えておく必要があります。
軽い過失の場合に責任の一部(たとえば上限額)を定めることはできますが、その条項が「重大な過失を除く過失による行為にのみ適用される」ことを条項の中で明らかにしていないと、それ自体が無効になります(同条3項)。「法令で許される範囲で責任を制限します」といったあいまいな書き方は、この要件を満たしません。
| 条項の書き方 | 効力 | 根拠 |
|---|---|---|
| 過失の程度を問わず、債務不履行による責任を全部免除する | 無効 | 8条1項1号 |
| 軽い過失の場合には責任を負わない(故意・重過失のときだけ負う) | 無効(軽い過失の全部免除にあたる) | 8条1項1号・3号 |
| 故意・重過失の場合でも、責任を一部に限る | 無効 | 8条1項2号・4号 |
| 軽い過失の場合に上限を設けるが、軽い過失に限る旨を書いていない | 無効 | 8条3項 |
| 重大な過失を除く過失の場合に限り、上限を設けると明記する | 8条では無効とならない(上限額の相当性などは別に問題になり得る) | 8条3項の反対解釈 |
不法行為(3号・4号)は、消費者契約における事業者の債務の履行に際してされたものが対象です。
別の観点として、免責条項が無効になっても、患者の請求が自動的に認められるわけではないことも押さえておきたい点です。債務不履行(民法415条)や不法行為(同法709条)の要件、損害との因果関係は患者側の主張・立証の問題として残り、患者側の過失があれば過失相殺(同法418条・722条2項)も働きます。免責条項を置かなくても、責任の範囲は法律の要件で画されるということです。また、勤務先の法人が契約者になる健康診断のように、診療の申込みの主体が法人である場面では、消費者契約に当たるかどうか自体を別に確認する必要があります(法人は消費者契約法上の事業者です)。
- 当クリニックは、本サイトに掲載する情報の正確性の確保に努めますが、本サイトの情報は一般的な案内であり、個々の症状に対する診断又は治療の方針を示すものではありません。
- 当クリニックの過失(重大な過失を除きます。)により、本サイトの利用に関して利用者に損害が生じた場合、当クリニックが賠償する額は、当該損害が通常生ずべき損害の範囲に限るものとします。
- 前項の規定は、当クリニックの医療従事者が行う診療に関する責任には適用しません。診療に関する責任は、法令及び診療契約の定めによります。
診療の責任をサイトの規約で制限しようとしないこと、制限する場合は「重大な過失を除く過失」の場合に限ると条項の中で明らかにすることが要点です。
「医療従事者の指示に従う」条項と説明義務
原案には、患者の義務として「医療従事者の指示に従うこと」が置かれていました。修正版でもこの号は維持していますが、報告書では、この条項の意味を誤解しないよう注意を付けています。医療法1条の4第2項は、医師・歯科医師・看護師などの医療の担い手が、医療を提供するにあたり適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならないと定めています。
報告書が引いたのは、予防的な脳動脈瘤の手術の説明義務が問題になった最高裁平成18年10月27日判決です。最高裁は、選択肢の違いや危険性、熟慮の機会について検討しないまま説明義務違反を否定した原審を破棄し、差し戻しました。患者に「指示に従う」義務や「自己の判断で受診する」旨を規約で負わせても、医療機関の側の説明義務がなくなるわけではありません。規約の条項は、院内の安全な運営のための協力のお願いという位置づけにとどめるのが適切です。
禁止事項と応招義務:規約違反だけで診療を断れるとは限らない
暴言・暴力、他の患者への迷惑行為、無断の撮影・録音などを禁止事項として並べること自体は合理的です。ただ、「禁止事項に違反した場合は診療をお断りします」と書いたからといって、常に診療を拒めるわけではありません。診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ拒んではならない(医師法19条1項。歯科医師について歯科医師法19条1項)という応招義務を負っています。
厚生労働省の令和元年12月25日の通知(医政発1225第4号)は、応招義務は医師が国に対して負う公法上の義務であって、患者に対する私法上の義務とは別のものと整理したうえで、診療を拒むことが正当化されるかどうかは、緊急の対応が必要かどうか、診療時間内か時間外か、患者と医療機関・医師との信頼関係などの事情で判断するとしています。事務所の報告書でも、禁止事項の違反は判断の材料の一つにはなるものの、違反があれば当然に拒否できるという書き方は避けるべきこと、料金の未払いや外国人であることだけを理由とする拒否はそれぞれ別の論点として考える必要があることを説明しました。修正版の禁止事項の条は、違反の効果(診療の拒否)を規約で決め打ちせず、禁止事項を並べるだけの形にしています。
料金・キャンセル・規約の変更
料金については上の改訂例のとおり、保険診療と自由診療を分けて書きます。キャンセルについて原案は事前の連絡を求めるだけで、修正版でも「予約の時刻に遅れないよう努め、遅刻・キャンセルの場合は事前に連絡する」という努力義務にとどめ、キャンセル料は設けませんでした。将来キャンセル料を設けるなら、解除に伴う平均的な損害を超える部分は無効になる(消費者契約法9条1項1号)こと、キャンセル料を請求する際に消費者から求められたら、事業者は算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならない(同条2項)ことを踏まえて額を決めます。訪問系や自費サービスでの具体的な段階の付け方はキャンセル料と返金のページで紹介しています。
規約の変更について、原案は「必要に応じて変更し、掲載した時点で効力を生じる」としていました。定型約款の変更で個別の合意なく契約の内容を変えるには、変更が相手方の一般の利益に適合するか、契約の目的に反せず、変更の必要性・変更後の内容の相当性などに照らして合理的であることが必要で(民法548条の4第1項)、効力発生時期を定めて、変更する旨・変更後の内容・効力発生時期を周知しなければなりません(同条2項)。合理性で変更する場合は、効力発生時期までに周知しないと効力を生じません(同条3項)。修正版の変更の条は、この要件にそって書き直しています。報告書では、規約が定型約款に当たらない場合はこの条文は使えず通常の合意が必要になること、すでに成立している予約や診療契約に変更後の規約が及ぶとは断定できないことも説明しました。
未成年の受診・外国人の受診者・合意管轄
未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が必要で、同意のない行為は取り消すことができます(民法5条1項・2項)。修正版は「法定代理人の同意を確認したときに限り承諾する」と、確認を契約成立の条件にしました。報告書では、契約の当事者や費用の負担者が誰か、代理権があるか、という民法の問題と、診療を受けることや個人情報の取扱いに本人が同意できるか、という問題は分けて考える必要があると説明しています。
旅行者や海外に住む人が受診するクリニックもあります。合意管轄(紛争になったとき訴えを起こす裁判所を合意で決める条項)は、民事訴訟法11条により、第一審に限り、一定の法律関係について書面(電磁的記録を含む)でしなければ効力を生じません。合意があっても、著しい遅滞を避けるためなどに移送されることがあります(同法17条)。さらに、消費者契約に関する将来の紛争について、どの国の裁判所に訴えるかを決める合意は、契約締結時に消費者が住所を有していた国の裁判所を指定するものか、消費者がその合意に基づいて訴えを起こし又は合意を援用した場合に限って効力を持ちます(同法3条の7第5項)。準拠法についても、消費者が常居所地法の強行規定の適用を求めれば、その規定が適用され得ます(法の適用に関する通則法11条1項)。ただし、消費者が事業者の事業所のある国に赴いて契約を結んだ場合などは、この特例が適用されない場合があります(同条6項)。来院して受診する外国人の場合と、オンラインで申し込む場合とで結論が変わり得るため、条文に一律の専属管轄を書く前に、受診の形を確かめます。外国人の患者を対象にした事業の契約は外国人患者・医療ツーリズムで扱っています。
ヒヤリングで確かめること クリニックの規約を作るとき
サイトにフォーム(予約・問合せ・アンケート)を置きますか。
フォームで個人情報を受け取るなら、送信の前に利用目的を示す必要があり、規約とプライバシーポリシーを同時に整えます(クリニックのプライバシーポリシー)。
自由診療(健診・予防接種・自費の施術など)はありますか。
料金の条で保険診療と書き分けます。自由診療の広告をサイトに載せる場合は医療広告の規律も関わります(医療広告ガイドラインと契約書)。
未成年の患者は、ひとりで予約や来院をしますか。
法定代理人の同意の確認方法(来院時の確認、同意書の持参など)を決め、成立の条件に組み込みます。
海外に住む人の受診や、外国語での予約受付がありますか。
合意管轄・準拠法の書き方と、外国語版を作る場合にどちらを正文とするかを決めます。
キャンセル料を設ける予定はありますか。
設けるなら、平均的な損害の考え方と算定の根拠を先に整理します。
起きがちなこと
よくあるご質問
クリニックのサイトの利用規約で、医療事故の責任を免除できますか?
できません。患者との関係には消費者契約法がかかり、債務不履行や不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項は無効です(8条1項1号・3号)。そもそも診療の責任は来院時の説明と同意で結ぶ診療契約と法令で決まるもので、サイトの規約で決めるものではありません。
「故意又は重大な過失がない限り責任を負いません」という条項は有効ですか?
消費者である患者との関係では無効です。軽い過失の場合に責任を全部免除する内容だからです。軽い過失の場合に上限を設けるなら、重大な過失を除く過失の場合にだけ適用されることを条項の中で明らかにする必要があります(消費者契約法8条3項)。
保険診療の料金を「当院の料金表による」と書いてもよいですか?
保険診療の料金は診療報酬点数表によって決まるため、料金表だけを示すと誤解を招きます。保険診療は関係法令の定める点数表、健診・予防接種などの自由診療は料金表、と分けて書きます。
迷惑行為をした患者を、規約違反を理由に断れますか?
禁止事項の違反は判断材料の一つですが、それだけで常に断れるわけではありません。応招義務(医師法19条1項)について、厚生労働省の通知は、緊急の対応が必要か、診療時間内か、信頼関係などで判断するとしています。規約では違反の効果を決め打ちしない書き方が安全です。
規約を変更したら、掲載しただけで既存の患者にも効力がありますか?
定型約款として変更するには、変更が合理的であることなどの要件を満たし、効力発生時期を定めて事前に周知する必要があります(民法548条の4)。規約が定型約款に当たらない場合は個別の合意が必要で、既に成立した予約や診療契約に新しい条件が当然に及ぶとは言えません。
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本ページは一般的な情報提供です。医療機関の開設・介護保険の指定などの許認可の手続、診療報酬の請求、労務の手続は扱っていません。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたクリニックのウェブサイトの利用規約・プライバシーポリシー、訪問看護・自費リハビリ・生活支援の利用契約書、医療機関との業務提携契約書、介護事業の譲渡契約書、歯科医院の契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で、医療広告の記述は厚生労働省の医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 医療法における病院等の広告規制について(厚生労働省) / 個人情報保護委員会