経営コンサル・共同経営・持分譲渡・開業支援

医療機関の経営に外部の事業者が関わる契約では、助言や事務の支援として関わるのか、利益の分配まで受けるのかを最初に整理し、文言をその整理に合わせます。

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出資者が「指揮命令をしない」と書くだけでは、医療機関の開設者や利益の帰属の問題は解消しません。

このページの要点

  • 営利を目的とする開設には許可を与えないことができ(医療法7条7項)、医療法人は剰余金の配当をしてはならない(同法54条)。
  • コンサルにレセプトを見せるなら、患者の個人情報の扱いを独立の条で定める。
  • 長期の契約でも月単位で中途終了できる設計や、成果物の利用の範囲を締結前に確認する。
  • 開業支援は支援の範囲・含まれない費用・支払時期・返金の事由を本文で特定する。

結論:医療機関の経営に外部が関わる契約は、「助言」と「経営」の境目を書く

歯科医院が経営コンサルタントと契約する、出資者が加わってクリニックを共同で経営する、医療法人の持分を譲り渡す、海外で歯科医院を開くための支援を受ける――医療機関の経営に外部の事業者が関わる契約では、一般の業務委託の論点に加えて、医療機関の開設者・管理者が誰で、診療の判断と医療機関の利益が誰に属するのか、という医療に固有の問いが入ってきます。

医療法は、医療機関の開設について、臨床研修等修了医師・歯科医師でない者が診療所を開設しようとするときは都道府県知事などの許可が必要であるとし(7条1項)、営利を目的として病院・診療所を開設しようとする者には許可を与えないことができると定めています(同条7項)。また、医療法人は剰余金の配当をしてはなりません(54条)。外部の事業者が経営に関わる契約を作るときは、助言や事務の支援として関わるのか、利益の分配まで受けるのかを最初に整理し、契約の文言がその整理と合っているかを確かめます。

外部の事業者の関わり方の違い

観点

助言・事務の支援

出資・利益の分配

典型

経営コンサル、開業支援、事務の受託

共同経営、出資、持分の取得

報酬・対価

業務の対価(月額固定など)

配当・利益の分配、持分の対価

医療機関の判断

助言にとどまり、指揮命令をしない

経営への関与の範囲が問題になる

確認すること

業務の範囲、患者情報の扱い、成果物の権利、責任の範囲

開設者・管理者、医療法人の剰余金の配当の禁止、出資者の関与の範囲

歯科医院の経営コンサル契約:業務の範囲とレセプトの閲覧

経営コンサルティングの会社が、歯科医院を運営する医療法人社団に月額の固定報酬で経営の助言をする契約書を、事務所で作成しました。コンサル会社の側からの依頼と見られる案件で、まず特定の医院との個別版を作り、続けて他の医院との契約にも使えるよう、医院の側の情報と期間・報酬を空欄にした汎用版を作っています。

業務は四つで、週1回の定期訪問による財務の情報と診療報酬の請求に関する資料(レセプト)などのレビューと助言、月1回のスタッフとの面談(業務の改善・人材の育成)、月次の報告書、医院の要請があったときの経営上の助言です。請求の事務そのものを行う条項はなく、レビューと助言にとどまります。コンサル会社は「乙の指揮命令下において業務を遂行するものではなく、独立した事業者として」助言・指導を行うことを明記し、業務の遂行にあたっては医療法その他の関係法令を遵守し、患者の権利の保護と医療機関としての社会的責任に十分配慮することも定めました。

レセプトには患者の氏名、傷病名、診療の内容が載っています。コンサルタントに見せるなら、患者の個人情報の扱いを独立の条で定めておくことが欠かせません。この契約では、患者・従業員などの個人情報について、個人情報保護法の遵守、目的の範囲内での利用、本人の同意のない第三者への提供の禁止、安全管理措置・内部規程・従業者の教育、開示などの請求や苦情を受けたときに相手方に通知して協議すること、終了時の返却・廃棄、違反したときの賠償を定めています。レセプトの閲覧を個人情報保護法上どう位置づけるか(医院がコンサル会社に取扱いを委託する形か、など)も、契約前に医院の側で整理しておくとよい点です。

ヒヤリングで確かめること 医療機関の経営コンサル契約で

  1. コンサルタントは、レセプトや診療録、患者の名簿を見ますか。

    見るなら、個人情報の条(目的、安全管理、返却・廃棄、委託先としての監督)を独立させます。

  2. スタッフとの面談や評価に関わりますか。

    指揮命令をしない独立の事業者であることと、面談の位置づけを書きます。

  3. 広告やウェブサイトの表現の助言も含みますか。

    含むなら、医療広告の確認の分担を決めます(医療広告ガイドラインと契約書)。

  4. 報酬は固定ですか、増患・増収に連動させますか。

    連動させるなら、保険診療の扱いと計算の根拠の確認方法を決めます(集患・成果報酬の契約)。

報酬・期間・中途解約・成果物・責任

報酬は月額の固定(消費税別)で、月末締め翌月末払い、コンサル会社は適格請求書を発行します。増患・増収に連動する成果報酬は設けていません。期間は5年と長めに置きつつ、満了の1か月前までに終了の意思表示がなければ1年ずつ自動更新とし、期間の満了前でも解除を希望する月の前月10日までに書面で通知すれば、その月の末日で終了できる形にしました。長期の契約を結びながら、実質的には月単位でやめられる設計です。違約金や解約料は定めていません。

報告書や分析資料の著作権は、特段の定めがない限りコンサル会社に帰属させ、医院は契約の目的の範囲で非独占的に複製し、院内で共有できるとしました。改変・転載・公衆送信・第三者への提供にはコンサル会社の書面の承諾が必要です。契約が終わった後も医院は報告書を利用できます。医院の側から見ると、受け取った改善提案を別の業者に渡して実行してもらう場合には承諾が必要になるので、どこまで自由に使えるかを締結前に確認しておく条項です。

責任については、コンサル会社は善良な管理者の注意義務を負うものの、故意・重過失がなければ責任を負わず、責任を負う場合も、損害の原因となった月に医院が支払った月額報酬を上限とし、逸失利益・間接損害などを除いています。事業者どうしの契約なので消費者契約法はかかりませんが、助言の誤りで医院に大きな損害が出た場合に1か月分の報酬が上限になる設計を受け入れるかは、医院の側の判断です。再委託は医院の事前の書面による承諾がなければできず、コンサル会社の子会社や関係会社への再委託も同じ扱いにしました。承諾した場合も、再委託先に同等の秘密保持と個人情報保護の義務を課し、再委託先の行為についてコンサル会社が責任を負います。

歯科医院の経営コンサル契約の主な条項(事務所の作成例)
条項定めた内容
業務週1回の訪問による財務資料・レセプトのレビューと助言、月1回のスタッフ面談、月次報告、要請時の経営助言
立場医院の指揮命令下で業務を行わない独立した事業者
報酬月額固定。成果報酬なし。適格請求書を発行
期間と終了5年・自動更新。前月10日までの書面通知でその月末に終了できる
成果物著作権はコンサル会社。医院は目的の範囲で利用でき、終了後も利用可
責任故意・重過失がなければ責任を負わない。上限は原因となった月の報酬
再委託子会社・関係会社を含め、医院の事前の書面承諾が必要

秘密保持・解除・通知:長期の契約で効いてくる条項

経営コンサルの契約は、医院の財務や患者・従業員の情報に深く触れ、期間も長くなりがちです。そのため、報酬や業務の範囲と同じくらい、秘密保持・解除・通知の条項が実際の場面で効いてきます。

秘密保持は相互の義務とし、明示された情報や性質上秘密と分かる業務上の情報を対象に、個人情報も含むと定め、契約終了後も5年間存続させました。解除については、是正を求めても改善されない違反、倒産の手続の申立て、手形の不渡り、差押えや滞納処分、反社会的勢力との関与などを事由に挙げています。反社会的勢力の排除の条では、暴力団などのほか、社会運動等標ぼうゴロや特殊知能暴力集団まで列挙し、不当な要求を受けたのに報告しない場合や、関係が疑われる合理的な理由がある場合も解除の事由にしました。

通知は書面・電子メール・FAXのいずれでもでき、指定の連絡先に送れば通常到達すべき時に到達したものとみなす一方、解除・違反の通知・損害賠償の請求などの重要な通知は配達証明又は内容証明によることとしました。連絡先の変更を知らせなかった場合は、旧い連絡先への通知も到達したものと扱います。管轄は医院の所在地を管轄する地方裁判所の専属としました。コンサル会社の側から見ても、相手方の医院にとって受け入れやすい管轄にしておくと、汎用のひな形として使いやすくなります。

汎用版を作る際は、医院の側の名称・所在地・代表者、契約期間の始期・終期、月額の報酬、締結日を空欄にし、コンサル会社の側の情報は残しました。条文の実質(業務・解除・責任の制限など)は個別版と変えていません。ひな形は、空欄を埋めれば使える形にしておく一方で、使う側が契約ごとに業務の内容と報酬の水準を見直すことが前提になります。

共同経営・出資の契約で、先に確かめること

株式会社などの出資者が加わってクリニックを「共同経営」する、という形の契約では、契約書の文言を整える前に、確かめておくべきことがあります。誰がクリニックの開設者で、誰が管理者の医師か。クリニックの利益は誰に属するのか。出資者が受け取るのは業務の対価なのか、利益の分配なのか。医療法人であれば剰余金の配当が禁じられており(医療法54条)、営利を目的とする開設には許可を与えないことができる(同法7条7項)とされているため、出資者が配当や利益の分配を受ける構成をとると、契約書の言葉をどう工夫しても、この規律との関係を避けて通れません。

出資者の側には、開業の設備や初期の資金を負担した以上、撤退するときに投資を回収したい、経営の状況を知りたい、という事情があります。他方で、出資者が医療機関の経営に関与するほど、診療の判断の独立や開設者の地位との関係が問われます。出資者が「指揮命令をしない」「責任を負わない」と書くだけでは、この二つの要請を両立させたことにはなりません。共同経営の契約では、①開設者・管理者を特定し、②出資者や関連会社(いわゆるMS法人=医療機関の経営を支援する法人)の業務を、医療機関の外の事務・設備の提供などに限定し、③その対価を業務の内容に見合った額で定め、④利益の分配の条項を置かない、という順番で整理するのが基本になります。

クリニックと、医療以外の事業(スクールや物販など)を同じ会社のグループで営む場合は、医療の事業と医療以外の事業の収支を契約の上でも分けておくことが大切です。医療以外の事業であれば、株式会社が営み、出資者が利益の分配を受けることに医療法上の制約はありません。二つの事業の利益を一つの会社でまとめて管理し、まとめて配当する形にすると、医療の事業の利益が出資者に流れる構造と区別がつかなくなります。設備や人員を共用するなら、その使用料や費用の分担を、取引として契約で定めておきます。

ヒヤリングで確かめること 共同経営・出資の相談で

  1. クリニックの開設者は誰で、管理者の医師は誰ですか。

    契約の当事者と、診療の判断をする人を確定させるための最初の問いです。

  2. 出資者が受け取るのは、業務の対価ですか、利益の分配ですか。

    利益の分配を受ける構成は、医療法の規律との関係を先に検討する必要があります。

  3. 出資者や関連会社は、どの業務を担いますか(設備の提供、事務、広告、採用など)。

    業務を医療機関の外の事務などに限定し、その対価を業務に見合った額で定めます。

  4. 撤退するとき、投資をどう回収したいですか。

    株式の買取りや初期投資の返還の条項は、医療機関の運営を不安定にしない形で設計します。

  5. スクールなど医療以外の事業も一緒に営みますか。

    医療の事業と医療以外の事業の収支・契約を分けて書きます。

医療法人の持分の譲渡契約

出資持分のある医療法人の持分を、複数の譲渡人から複数の譲受人に譲り渡す契約のひな形を作ったこともあります。持分の対価を名目的な額とする設計で、譲渡人が、全社員の同意と第三者の許認可・承諾などの必要な手続が譲渡日までに完了していることを保証し、基準日の貸借対照表・損益計算書が正確で、記載外の債務がないことも保証する、という構成です。譲渡日までに重大な変更や隠れた瑕疵が見つかった場合は、協議のうえ条件を変え、又は解除できるとしました。

持分の譲渡では、契約の当事者は持分を持つ人どうしで、医療法人そのものは当事者ではありません。それでも、譲受人が知りたいのは医療法人の財務や債務の状態です。そのため、医療法人の財務諸表の正確さや記載外の債務がないことを譲渡人に保証してもらい、社員の同意など医療法人の内部の手続の完了を譲渡の前提にする構成をとります。譲受人の側から見れば、保証の対象を医療法人のどの書類のどの時点のものにするか、保証が事実と違った場合に何を請求できるかを、契約の中で具体的にしておくことが大切です。対価を名目的な額にする場合の税務上の扱いは、契約とは別に確認が必要です。

海外の施設の一区画での歯科開業と、開業支援

海外の医療複合施設のうち日本の会社が使用の権限を持つフロアの一部を、別の日本の会社に使わせ、その会社が独立した事業者として歯科医療を行い、使わせる側が現地での開業を支援する、という複合的な契約も作りました。国内の歯科医院を別の歯科医師に貸す形ではなく、海外での開業が前提です。

海外の施設の使用許諾と開業支援の契約の設計
論点定めた内容
独立事業者であること雇用・請負その他の労務提供の関係ではなく、使わせる側に指揮命令権はなく、使う側が自らの名義と費用で全ての責任を負うことを三度確認。一方で営業日・時間の指定や売上管理への関与の条項もあり、その緊張に注意
契約金の支払初版は締結後7日以内の一括。修正版で、締結後7日以内に50%、開業日に残り50%の2回払いに。開業日は使わせる側の書面(電子メールを含む)の通知で確定
支援の範囲修正版2で、別紙から本文へ。開業前の準備、オペレーションの構築、開業前後の調整、継続支援の4区分で列挙
含まれない費用就労ビザ、当局への開業申請、医療機器・什器、求人広告、カード端末と通信費などを列挙。要請に応じた協力・専門家の紹介は可能
施設の使用料米ドル建ての固定運営費+当月売上の5%の共益費。前月比15%以上の為替の変動で再換算・代替通貨を協議。売上明細は翌月10日まで
転貸に近い構造使わせる側は施設の所有者ではないため、元の契約の終了・退去命令を即時解除の事由に
設備と原状回復医療機器は使う側が調達・所有・管理。終了時は撤去と原状回復、立会いと原状回復確認書
準拠法日本法を準拠法とする

このほか、受付・通路・休憩室・給湯室・トイレなどを他の入居者と共用する部分については、清掃などの維持管理を協議で交代制又は分担制とし、合意できなければ使わせる側が決めた分担案に従うこととしました。売上は使う側が自分で管理し、翌月10日までに科目別・入金日・決済方法別の売上明細を出します。使わせる側のレジで一元的に処理する場合も、使う側が少なくとも日次でデータにアクセスでき、売上の記録は原則7年間保存し、求めがあれば開示する形です。期間は開業日から2年で、満了の3か月前までに書面で終了を通知しなければ1年ずつ自動更新し、終了の通知は内容証明・書留・合意した電子的な方法により到達した時に効力を生じます。現地の税務・労務・法務の専門家との顧問契約は、使う側が必要に応じて結び、使わせる側は紹介ができる、という分担にしました。

契約金を返すかどうかは、開業支援の契約で最も争いになりやすい点です。この契約では、契約金は原則として返さず、使わせる側の責めで施設の使用が恒常的に不可能になった場合と、使わせる側の重大な債務不履行で主要な支援が遂行されなかった場合を例外としていましたが、修正版2で、返金の入口を「正当な理由があり、かつ使わせる側がこれを認めた場合に限り」とし、支援が「著しく」遂行されなかった場合に絞っています。支払う側から見れば、どのような場合に返金を受けられるのかがどこまで具体的に書かれているかを、締結前に確かめておきたい条項です。

開業支援の契約で争いになりやすい点の点検

  • 支援の項目が本文で列挙され、「一式」で済ませていないか
  • 契約金に含まれない費用(ビザ、申請、機器、広告、端末など)が列挙されているか
  • 契約金の支払が、支援の進み具合に応じた分割になっているか。開業日を誰がどう決めるか
  • 返金の事由と、返金する場合の額の計算方法(実施済みの支援の扱い)が書かれているか
  • 施設を又貸しで使う場合、元の契約が終わったときの扱いと返金の関係
  • 設備の撤去・原状回復の範囲と、費用の負担

医院の側から見ると、開業支援の会社が現地の手続や業者との調整をどこまで代行し、どこからは自分で専門家と契約しなければならないのかが、最も知りたい点のはずです。支援の範囲の列挙と、含まれない費用の列挙は、その境目を契約書の上で目に見える形にするためのものです。歯科の分野の契約は歯科の契約書にもまとめています。

起きがちなこと

よくあるご質問

経営コンサルにレセプトを見せてもよいですか?契約に何を書けばよいですか?

見せること自体は契約で手当てできますが、レセプトには患者の氏名や傷病名が載っているため、目的の範囲での利用、安全管理措置、第三者への提供の禁止、終了時の返却・廃棄などを個人情報の独立の条として定めます。委託として整理するかどうかも医院の側で確認します。

歯科コンサルの報酬は、固定と成果報酬のどちらにすべきですか?

どちらも選べますが、事務所が作成した契約は月額固定で、成果報酬は設けませんでした。増患・増収に連動させる場合は、保険診療を計算から外すか、計算の根拠をどう確認するかを決める必要があります。

株式会社がクリニックを「共同経営」する契約は作れますか?

契約書を作る前に、開設者・管理者が誰か、利益が誰に属するかを整理する必要があります。医療法は営利を目的とする開設に許可を与えないことができるとし、医療法人の剰余金の配当を禁じています。出資者の関与を限定する文言だけでは、この規律との関係は解消しません。

医療法人の持分の譲渡契約では、何を保証してもらいますか?

全社員の同意と必要な手続が譲渡日までに完了していること、基準日の財務諸表が正確で記載外の債務がないことなどを譲渡人に保証してもらう例があります。保証の対象とする書類と基準日、保証が事実と違ったときに請求できる内容も具体的に定めます。

開業支援の契約金を「返金しない」と定めても有効ですか?

事業者どうしの契約では消費者契約法はかかりませんが、支援が全く行われなかった場合まで返さない定めは争いの元になります。返金の事由、支払の時期(分割にするか)、支援の範囲と含まれない費用を本文で特定しておくことが大切です。

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